
「なぜ練習しているのに上達しないんだろう?」「才能がないから仕方ない」
多くのテニスプレーヤーが抱くこのような悩み。しかし、上達しない真の原因は才能や身体能力の問題ではなく、実は「誰でもできる基本的なこと」をきちんと継続していないことにあるかもしれません。
今回は、テニス指導の現場で長年選手を見続けてきた僕の視点から、本当の意味でのテニス上達に必要な「当たり前のこと」の重要性について詳しく解説します。プロ選手との技術的な差の根本原因から、日常生活での姿勢改善まで、見落としがちな上達の秘訣をお伝えします。
上達の前提:誰でもできることの継続
才能以前の問題
テニスが上手になるということについて、多くの人が才能や身体能力に注目しがちです。しかし、それ以前に重要なのは「誰でもできることをちゃんときっちりやっているか」ということです。
これができていない限り、どんなに高度な技術練習を積んでも、真の意味での上達は期待できません。
基本中の基本:スプリットステップ
最も分かりやすい例が「スプリットステップ」です。
スプリットステップとは 相手がボールを打つ時にタイミングよく軽くジャンプし、着地と同時に左右どちらにでも動ける体勢を作る基本動作です。
なぜ重要なのか
- 体重の再配分:一旦ジャンプして着地することで、体重がニュートラルに戻される
- 運動準備:左右どちらの方向にもスムーズに動き出せる状態になる
- 慣性の排除:横方向への動きの慣性に影響されない
スプリットステップを行わない問題
多くの選手が無意識に横方向に動いているため。
問題点
- 慣性の影響:左右の慣性に影響されてしまう
- スタートの遅れ:スタートダッシュがどうしても遅れる
- 動きの制限:特定の方向への動きが制限される
結果 ほんの少しの差ですが、この積み重ねが大きな技術的差となって現れます。
よくある反論とその問題
「古いテニス」という誤解
スプリットステップの重要性を伝えると、時として以下のような反論があります。
保護者からの反論例 「今の時代、ステップを踏むのは古いテニスです。フェデラーはこんなことやっていませんよ」
スタンダードメソッドの重要性 しかし、テニスのスタンダードメソッドでは、「相手がボールを打つ時にスプリットステップを踏む」ことは基本中の基本として位置づけられています。
個人的な持論の危険性 様々な持論や新しい理論も存在しますが、基本を無視して応用に走ることは本末転倒です。
基本の継続がもたらす効果
体重のニュートラル化
スプリットステップの本質は、体重を完全にニュートラルな状態に戻すことです。
メカニズム
- ジャンプによる体重の一時的な除去
- 着地時の均等な体重配分
- あらゆる方向への動きの準備完了
結果 自然にどこでも動ける状態が作られ、相手のショットに対する反応速度が格段に向上します。
誰でもできることの継続の難しさ
矛盾する現実
- 初心者でもできる簡単なこと
- しかし上級者がやらないことが多い
- 継続することの難しさ
継続のパターン
- 成功例:誰でもできることを常にやり続ける選手は上達する
- 失敗例:3日坊主や1時間坊主で終わる選手は上達が止まる
身体能力による代替の限界
一部の選手は優れた身体能力によって基本を無視してもある程度のレベルまで到達できます。しかし、
限界の存在
- 基本ができていない選手には必ず限界が来る
- より高いレベルでは身体能力だけでは対応できない
- 技術的な穴が大きな弱点となる
プロ選手の技術分析から見える問題
日本のプロ選手の技術的課題
長年にわたってプロ選手の動作解析を行った結果、以下のような現実が見えてきます。
国際レベルとの差
- ATPやWTAで活躍するトップ選手の動き
- 日本国内のプロ選手の動き
- 両者の間には明確な技術的差が存在
根本原因の推測 申し訳ないことですが、日本のプロ選手の多くが国際レベルに至っていない理由として、ジュニア時代の基礎固めが不十分だった可能性が高いと考えられます。
サーブ技術の分析例
特にサーブの動作を詳細に分析すると、
技術的な差
- トップレベル選手:流れるような自然で効率的な動き
- 国内レベル選手:ぎこちなさや無理のある動き
原因 小さい頃から教わったであろう基本技術を「きちんとやり切っていない」結果と推測されます。
7つのコーディネーションとの関連
スタビリティ(安定性)の重要性
基本的な動作ができていない選手を7つのコーディネーションの観点から分析すると、
スタビリティの欠如
- 相手がボールを打つ前に安定した体勢が作れていない
- スタビリティから効率的な運動(連結運動)への移行ができていない
連鎖的な問題 スタビリティの欠如は、すべての後続動作に悪影響を与えます。
- 不安定な準備姿勢
- 効率の悪い初動
- ぎこちない連結運動
- 全体的なパフォーマンスの低下
根本的な原因:姿勢と骨格
技術的な問題を突き詰めていくと、最終的には以下に行き着きます。
基本的な要素
- 姿勢:正しい体の使い方の基盤
- 骨格の alignment:効率的な動作の前提条件
- 日常的な体の使い方:すべての運動の土台
日常生活習慣の重要性
生活習慣が技術に与える影響
テニスの技術的問題の多くは、実は日常生活の習慣に起因しています。
具体的な生活習慣
- 正しい座り方:「正しく座ろうね」
- 食事の姿勢:「ご飯を食べる時は犬みたいなことしないで、ちゃんと背筋を伸ばして食べようね」
- 読書の姿勢:「本を読む時は背筋を伸ばしてちゃんと読もうね」
生活習慣は最強のトレーニング
なぜ生活習慣が重要なのか
- 継続性:毎日必ず行う動作
- 習慣化:意識しなくても正しい姿勢が身につく
- 基盤形成:すべての運動動作の土台となる
長期的な効果 日頃の生活習慣の積み重ねが、テニスコートでのパフォーマンスに直接的に影響を与えます。
生活習慣を無視した練習の限界
優れた生活習慣ができていない状態で高度な練習をしても。
問題点
- 体の基礎ができていない
- 無理のある動作の習得
- 怪我のリスクの増大
- 上達の限界
金属的な才能による一時的成功 生活習慣が悪くても勝てる選手も存在しますが、
- もともとの身体的才能による一時的な成功
- 必ず限界が来る
- 動きに無理があることが明確に見える
一般的なテニススクールの問題
表面的な練習への偏重
多くのテニススクールで見られる傾向、
問題のある方向性
- 基本を無視した高度なドリル
- 「○○メソッド」などの特殊な練習法への注目
- 見た目に派手で「すごい」練習内容の重視
根本的な疑問 体の基礎や基本的な習慣ができていないのに、そのような高度な練習で本当に上達するのでしょうか?
基礎軽視の風潮
現状の問題
- 地味な基礎練習の軽視
- 即効性のある練習法への偏重
- 長期的視点の欠如
必要な視点転換
- 基礎の徹底的な習得
- 継続的な基本動作の練習
- 長期的な技術向上計画
実践的な確認方法
ビデオ分析による客観的評価
自分の基本動作ができているかを確認する最も効果的な方法。
撮影方法
- 後方からの撮影:自分が打つところと相手が打つところを記録
- インパクトタイミングの確認:相手のインパクト時の自分の体勢をチェック
- 体勢の分析:左右均等に動ける体勢になっているかを確認
具体的なチェックポイント
相手がボールを打つ時の自分の体勢
- 両足の体重が均等に乗っているか
- どちらの方向にでも動ける状態になっているか
- スプリットステップを適切に踏んでいるか
一般的な問題 実際にビデオを撮って確認すると、9割以上の選手が適切なスプリットステップを踏めていないのが現実です。
真実を受け入れる勇気
ビデオが教えてくれること
- 自分の思い込みと現実のギャップ
- 改善すべき具体的なポイント
- 上達への明確な道筋
「一歩が遅い」の真の原因 「一歩が遅い」と感じている選手の多くは、実はスプリットステップができていないことが根本原因です。
基本の継続がもたらす変化
小さな差が生む大きな結果
スプリットステップ一つの影響
- ほんの少しの動作の違い
- しかし積み重なると大きな技術的差となる
- 最初の一歩の速さに直結
- 全体的なコートカバー能力の向上
基本ができない選手の現実
ステップすら踏んでいない選手
- 体勢が「めちゃくちゃ」な状態
- どの方向にも効率的に動けない
- 反応速度の著しい低下
改善の即効性 基本をきちんと身につけることで、驚くほど短期間で改善が見られることも珍しくありません。
上級者ほど意識すべき基本
レベルが上がるほど重要になる基礎
矛盾する現象
- 初心者でもできる簡単なこと
- しかし上級者ほど軽視しがち
- レベルが上がるほど基礎の影響が大きくなる
プロレベルでの基礎の重要性 トップレベルになればなるほど、基礎的な動作の精度が勝敗を分ける要因となります。
継続的な基礎の見直し
定期的なチェックの必要性
- 上達とともに基礎が崩れることがある
- 定期的な動作確認の重要性
- ビデオ分析による客観的評価の継続
まとめ:真の上達への道筋
基本の徹底が上達の鍵
テニスの上達において最も重要なのは、
- 誰でもできる基本的なことの確実な習得
- それらを継続して行う習慣の確立
- 日常生活からの姿勢・動作の改善
- 客観的な評価による継続的な改善
才能以前の問題
優先順位の明確化
- 才能や身体能力の前に基本の習得
- 特殊な練習法の前に基礎の徹底
- 高度な技術の前に基本動作の完成
長期的視点の重要性
継続することの難しさと重要性
- 簡単なことを続けることの困難さ
- しかし継続した者だけが到達できる高いレベル
- 基礎を軽視した練習の限界
実践への第一歩
今すぐできること
- ビデオ撮影による現状確認
- スプリットステップの意識的な練習
- 日常生活での姿勢の改善
- 基本動作の継続的な確認
指導者・保護者へのメッセージ
基本重視の指導
- 派手な練習法に惑わされない
- 基礎の重要性の再認識
- 長期的な視点での選手育成
環境作りの重要性
- 基本を大切にする文化の醸成
- 継続を支援する仕組み作り
- 客観的評価の定期的な実施
最後に
テニスの上達は決して複雑で困難なものではありません。むしろ、誰でもできる基本的なことを、どれだけ真剣に、どれだけ継続して取り組めるかにかかっています。
スプリットステップという一見地味な動作も、それを軽視せずに徹底して身につけることで、あなたのテニスは劇的に変化するはずです。まずは後方からビデオを撮影し、相手がボールを打つ時の自分の体勢を確認することから始めてみてください。
その映像が示す現実こそが、あなたの真の上達への出発点となるでしょう。
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